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日本版画協会同人連作

東京回顧図絵

12月16日(水)、19日(土)、23日(水)、26日(土)

敗戦の年の暮れ、復興に向けて9名の版画家が美術出版の魁(さきがけ)として発表した15枚の連作を展示します。 コロナ禍からの復興への願いを込めて年を送り、世代を超えた生き方を見据えながら新年を迎える場になればと思います。

昔の作品だということはわかるけれど、一体なんなんだ?という方が殆どだと思います。なので、これらの木版画作品の楽しみ方をざっと書いてみます。木版画と言えば、小学校の時にバレンを使ったような記憶があるのではないでしょうか。江戸時代には、絵を描く、木を彫る、紙に刷る、それぞれの職人がいて、「錦絵」や「浮世絵」と呼ばれて流行しました。当時は500円もしないアイドルのブロマイドのようなものであり、鎖国中に輸出された食器の包み紙が浮世絵だったりしました。

明治期になると、西洋美術界では日本美術に対する熱狂「ジャポニズム」が起きていましたが、日本での版画は美術品としてではなくて、工業・工芸の分野として扱われていました。中学校であれば「技術」の授業に当たるもの、といえばわかりやすいでしょうか。明治末期からは、1人で全ての工程を行い(自画自刻自摺)、版画独特の表現を求める作家たちによって「創作版画運動」が起こりました。こうした美術的位置づけを鮮明にする流れに、今回の展示作家である恩地孝四郎や銚子市にもゆかりのある竹久夢二らも活躍して、「日本版画協会」に引き継がれます。彼らの活躍の結果、昭和2年には現在の日展に版画が美術の一つとして認められ、やがて、棟方志功らがヴェネツィア・ビエンナーレ版画部門で最高賞を獲得するなど、国内でも版画が美術として定着することに繋がります。

「東京回顧図絵」の発行は、昭和20年12月と書かれています。1945年、大戦後僅か4ヶ月の事です。 大正12年に起きた、関東大震災への復興へ向けて作られた「新東京百景」という創作版画のシリーズから復刻した8点と、新作7点を加えた15点になります。今の漢字ではないので読み辛いですが、その解説文は今なお熱を帯びているようです。

美術出版の魁として戦後復興を願った作品を、このコロナ禍の年末に展示するのは、現代の価値感だけでなく100年後の世界を見据えて生きたいという思いからです。

ロクの家 宮内博史
作品提供:越川行雄 様

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<解説文の意訳>

戦禍を免れ得なかった東京は、空襲によって恐れ多くも皇居を初め奉り、明治開化以来の文明、江戸三百年の建設、更に二千六百年の歴史が作り上げた数々の建設物を傷つけ、又無に帰した。焦土に立っていささか感無量である。

ここに日本版画協会同人相計ってその景観を同創作版画として上版し、同惜の士と共に回顧の代わりに公開することとした。 選出十五景、必ずしも全壊滅に帰したもののみではないが、いずれも災厄を受けた所である。我らの少年時代より尊崇の対象として脳裏に鮮やかな二重橋に害がなかったことは幸いであった。これを筆頭にこの名所名所が灰とちりに帰し又破損されたことは何としても遺憾である。

これらの絵はみな作者の愛惜の念を込めた努力作である。かくしてせめて絵画として留め得たことをよころびとする。同感の士の共鳴を得んことを強く望む次第である。

今や復興日本。新生日本の美術出版の魁として本集を世間に送りうることを非常に喜ばしいこととする。

作者並刊者言

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※表紙や解説文の紙が弱かったので、染めて水張りした和紙を使って雰囲気だけ複製した。